ヒトゲノム解読完了後から、いつか医療でもゲノムの時代がやってくると言われていました。近年、遺伝子検査キットなどが登場し、一般の方が手軽に検査を受けられるようになってきています。今までの検査は自費で受ける必要があり、ある程度の精度を担保したい時には高額になることもありました。しかし、2019年6月1日より、保険適用になったことで安価になり、より多くの人が検査の機会を得ることができるようになりました。今日はゲノム医療の保険適用による薬剤師への影響などを考えたいと思います。

そもそもゲノム医療って何するの?

人の身体を構成する主な構成要素はタンパク質ですが、このタンパク質は設計図である遺伝子から日々作られています。遺伝子はDNA上にあり、このDNAが染色体という箱にしまわれています。この染色体は人だと46個あり、この染色体全セットのことをゲノムと言います。つまり、ゲノムにはすべての遺伝子が含まれています。厳密に言うと少し違うのですが、巷でゲノム検査やゲノム医療と言う時には、遺伝子検査とほぼ同じことを指していることが多いです。

これまでは一度の検査で少数の遺伝子しか調べられませんでしたが、がんゲノム医療では多くの遺伝子を同時に調べることができます(遺伝子パネル検査と言います)。多くの遺伝子を調べることができると、適切な薬が見つかる可能性が高まります。もう少し具体的に説明すると、がんは遺伝子の変異をきっかけに発症すると考えられています。細胞分裂の際に遺伝子の複製が行われますが、この際に何らかのきっかけでエラーが生じることで遺伝子が変異します。これが蓄積されることが発がんにつながります。

変異した遺伝子からは異常なタンパク質が作られますが、この特定のタンパク質を狙い撃ちすることでがん細胞の増殖を抑制したり、破壊したりする薬が分子標的薬になります。つまり、同時に複数の遺伝子変異を調べることができれば、これまで以上に適切な薬を選択することが可能となる、かつ、無駄な薬の投与を抑えることができて、結果として副作用も起こりにくくなると考えられるのです。

ゲノム医療の保険適用対象は?

これまでは保険外診療だったため、費用は数十万円でしたが、2019年6月1日より保険適用になり、安く検査を受けられるようになりました。高額療養制度を利用できればさらに自己負担を抑えることができます。ただ、現時点では誰でもどこででも受けられるものでもないことも注意が必要です。

検査を受ける条件として、固形がんの患者さんで、標準治療を終えた、もしくは標準治療がない場合などに限定されています。これまでも大腸がんや乳がんなどの一部のがんでは、標準治療の中で医師の判断により、数種類の遺伝子を調べる遺伝子検査の結果を基に、薬を選ぶことは行われていました。

今回のゲノム医療は標準治療外で、かつ、多数の遺伝子を同時に調べられるという点で従来とは異なります。また、ゲノム医療は先進医療に該当し、主に、専門の人材を育成するなどがんゲノム医療を提供する基準を満たした「がんゲノム医療中核拠点病院」とそれと連携する「がんゲノム医療連携病院」で行われます。

現時点で、前者の「がんゲノム医療中核拠点病院」は全国11カ所、後者の「がんゲノム医療連携病院」は156カ所が指定されています。さらに今回の保険適用にあたり、厚生労働省は患者さんから同意を得られた場合には、各病院に対して、国立がん研究センターへの遺伝情報の提供を義務付け、データを一元的に集めて管理することで、今後の研究や創薬につなげることを目標にしています。

今後の薬剤師との関わりは?

さらに簡便な検査キットや機器が登場したり、ゲノム医療に専門家が増えてきたりすれば、よりゲノム医療への国民の理解が進み、前述した病院以外でもゲノム医療を実施できるようになってくるでしょう。ゲノム情報を個人が管理する時代になることも考えられます。

また、現在はがんのゲノム医療ですが、今後は違う疾患にも広がっていくことが予想されます。それに伴い想定されているのが、ゲノム情報を病院と薬局で共有することです。今後はゲノムの知識がないと、適切な薬かどうかの処方解析すらも難しくなるかもしれません。

さらに一歩進んだ未来の話かもしれませんが、薬局で遺伝子検査を行うようになれば、薬剤師としては、ゲノム医療について知らないと業務自体ができない時代になることも考えられます。まだまだ先の夢物語とは思わず、ぜひ一人でも多くの薬剤師が今のうちに積極的に勉強してみることをお勧めします。ゲノム医療についての本もたくさん出版されていますので、病院薬剤部や薬局に1冊おいてみることから始めてみてください。

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